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【寄稿】― 2016年5月パユ来日公演に寄せて ―

これまで15年以上にわたってパユ公演の曲目解説やCDブックレット原稿等を執筆し、インタビューも度々行ってきた音楽ライターの木幡一誠氏が、今回の来日公演プログラムの魅力を語ってくださいました。

気の合う仲間と囲む、至高の室内楽

ロッシーニはモーツァルトをこよなく愛していた。“神の恩寵”とすら評したその音楽になぞらえながら、美食家だった彼はトリュフという至高の食材を讃えていたという。もしパユのフルートでモーツァルトを、そしてまた自分の作品を耳にしたなら、満面の笑みと共に同じ言葉を演奏に対して捧げたのではないか。

そんな想像をかきたてるコンサートがやってくる。パユが日本でフルート四重奏を披露するのは2001年以来。「常にフレッシュな気分でステージに臨むこと」を信条とする音楽家ゆえ、機が再び熟するのを待っていたのだろう。そして今回は、我が国との縁も深いパユが心から畏敬の念を抱く作曲家、武満徹の無伴奏作品がプログラムに彩りを添える。今年が没後20年にあたる武満の遺作「エア」も、創作活動初期を代表するシアター・ピース的な野心作の「ヴォイス」も、パユの恩師オーレル・ニコレへ捧げて書かれたものだ。2015年9月に武満が多くの時間を過ごした八ヶ岳山麓の地を訪れた際に、「森の樹々や木漏れ日、そして高原の空気に囲まれながらタケミツさんの音楽の霊感の源に触れるという、かけがえのない体験ができた」とパユは語っていた。

モーツァルトとロッシーニと武満が肩を並べるだけでも十分に多彩な演目構成だが、ブラジルの作曲家ヴィラ=ロボス、さらにはドヴォルザークの作品を取り上げることによって、“南北アメリカ”というキーワードを盛り込んだプログラムまで用意するあたりがパユらしい。彼がポリシーとして掲げる“聴衆と共有する音楽の旅”を、バラエティ豊かなツアーにするためのアイデアは本当に無尽蔵なのだ。その旅の添乗員よろしく同行してくれるのは、パユが盤石の信頼を置くベルリン・フィルの仲間たち。気の合う同僚と極上の料理を囲む宴が、そのまま至高の室内楽と化していくような瞬間に立ち会いながら、耳の悦楽を味わってみたい。

木幡一誠(こはた・いっせい/音楽ライター)

 

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